れきりま 3 (バトルフィールド ・ 後編)





「何をしている。置いていくぞ」
足早に歩くキースに遅れ、メイアがフラフラと追いかける。
「そんなに急がなくてもいいじゃない!小さな村だから一時間もあれば戻れるはずよ」
「また戦闘にならなければ、な」
キースは辺りの気配を伺いながら話した。
「だって見たでしょ、ここまで来た時にわたしが!わたしが!このわたしが!一人で倒したリザードの死骸がそのままになっているのを」
「…確かに食い散らかされた跡はなかったが、この先も同じという保証はない」
「もぅ、少しは労わってくれてもいいでしょ!」
疲れているのだろう、メイアらしくない甘えた発言だ。
「……そうか。少し休むか。ただし完全に腰を降ろすな。後で立つのがキツくなるからな」


傍の岩にもたれかかるように小休止をとった。
「……………」
「はぁ…、どうしてこんなに無愛想なのかしら」
「疲れているわりには口だけはよく働くもんだな」
キースが皮肉に言う。
「そうじゃなくて、何か少しは話をしてもいいでしょ?」
「話す事などない。…何を話せばいい?」
とたんにメイアがうろたえる。
「な、何って…、そう…、その…」
「質問によるが答えてやるぞ。タテに2匹のリザードが襲ってきた場合とか」
「だから、そういう話は」
「前の一匹を攻撃して隙ができてしまうと、すぐに続く敵に襲われる。それを考えてだな」
「違ぁーう!」
メイアが話を遮った。
キースはため息をつく。
「元気だろ、お前本当は」
「疲れたわよ!余計に」



「だから料理は実験なのよ、わかる?失敗なんてないの。全て『過程』なのよ」
「食わされる方は迷惑だ」
「考えようなの、それは。前回とどこが違っているか味わう楽しみがあるでしょ?」
「そもそも実験とはなんだ。料理は料理だ。食えなきゃ意味がない」
「毒じゃないんだし大丈夫でしょ。素材は同じものを使っているんだから」
「どうして同じ素材であんなものが作れるのか、むしろ感心する」
意外に会話は盛り上がっていた。
「じゃキース、アンタはできるのかしら?」
「お前よりはマシに犬のエサくらいなら作ってみせる」
「失礼ね!!」
ガサッ……
「来たか?」
「…みたいね」
辺りに姿はないが、明らかに藪をかき分ける音がする。
ガサ…ガサ…
「デカイぞ、コイツ」
「でも、単体みたい」
「…だな。やっとオレの仕事だ」
剣を抜き、ゆっくりあたりの気配を探った。
ガサガサガサッ!!!!
二人を捉えると、藪の中からリザードが姿を現し突っ込んできた。
「下がっていろ!」
「援護は!」
「いらん!が、見ていて判断してくれ!オレに当てるなよ!」
「カチン!当ててやろうかしら」
極端に頭を下げた姿勢でリザードが突進してきた。
「バカめ!頭を狙ってくれと言ってるようなものだ!」
キースも真正面から走って上段に構えた。あの体勢からの攻撃はないと読んだ。
が、
低い体勢からリザードが跳躍した。
「クッ…!なんてジャンプ力だ!」
軽々とキースを飛び越えるとメイアめがけて、やはり頭を低くしたまま襲いかかる。
「体当たりだ!避けろ!!」
キースが叫んだ。
あまりに咄嗟の事で、メイアはどうかわせばよいか瞬時に判断がつかなかった。
あろうことか避けたつもりが、リザードの頭に飛び乗ってしまう。
「シャアァァッァァ!!!!!」
とたんにリザードが勢いよく頭を上げると、メイアは空中高く飛ばされた。
「きゃぁぁぁぁ!!!」
「メイア!!!」
リザードは向きを反転させ、再び同じ姿勢でキースに迫る。
『ヤバいぞ!あの高さから落下したら…』
剣を逆手に持ち変えるとキースも飛んでリザードの頭に乗った。
後ろ手で眼を貫く。
「ギャァ!!!」
頭を持ち上げたリザードはキースも空中に跳ね上げた。
『ここだ!』
タイミングを計ってメイアに向かってリザードの頭を蹴って飛んだ。
空中でメイアを抱きかかえる。
「キース!」
「体勢を立て直せ!」
宙で不安定にしていたメイアを後ろから抱く格好になる。
「……、さてここからどうする」
「って、飛べたんじゃないの!」
「飛べるか!」
ずいぶんな高さまで跳ね上げられ、このまま岩場に叩きつけられたら致命的だが、着地地点は草原になりそうだった。
「それでもヤバイぞ、これは」
「任せて!わたしを…、わたしをしっかり抱いていて!」
キースは言われるがままにメイアを強く抱きしめ安定させた。
メイアは狙いを定め、落下地点になりそうな場所近くの大木へ電撃を放った。
2発、3発!
『間に合うか!』
5発6発7発!
「バーン!」と大きな音をたてて大木が傾いた。
そのまま大木が倒れると数本の木々も巻き込んで倒れた。
「よし!落ちるぞ!」
メイアはキースにしがみつくように身体の向きを変えた。
キースがメイアの頭を抱え込むようにすると二人はそのまま倒木の中に突っ込む。
バキバキバキッ!!!!!


「いつつ…。メイア…、大丈夫か?」
「いたた。わたしは平気…」
とりあえず窮地は逃れられた。
「ギシャァァァァァ!!!」
手負いになったリザードが暴れている。
「キース、剣は?」
「捨てた。あそこだ」
暴れているリザードの足元に放りだされていた。
「あそこでオレを飛び越されたのが失敗だった。責任はとる!」
立ち上がると、丸腰でキースが駆け出した。
「ここは逃げて!!!」
メイアの制止も聞かず、剣に向かって走った。
「ギャァァァァァァッ!!!」
やみくもに暴れているリザードの潰された眼の方に回りこみ、視界がきかない範囲から剣を手にしようとしたところにリザードの爪が振られる。
爪先が頬をかすめると剣を手にした。
剣に陽炎が立つ。
刹那、リザードの胴体は真っ二つになった。



「無謀ね…」
「まぁな…」
さすがに気が抜け、二人は座り込んでしまっていた。
「先の事も考えないで飛んだりして…。キースらしくないわね」
「……ただ」
「?」
「もう、目の前で何もできずに死なせる事だけはしたくなかった…」
「『もう』?」
「あぁ、二度とあってはいけない事なんだ。立てるか?」
先に立ち上がったキースがメイアに手を差し伸べた。




レイ達と合流し、学園までの帰途についた。
「そうかぁ〜。それは危なかったね…」
「オレのミスだ。今回はメイアを危険な目に遭わせてしまった…」
キースが俯きながら力なく歩く。
「ま…、まぁ、わたしと組んだ事がラッキーだったからいいなじゃない?」
「だな…。遠隔からの電撃でしかあの場は凌げなかった…」
「な、なんなら、また組んであげてもいいですけど〜」
メイアは視線を合わせようとはせず言った。
レイもその意見に同調する。
「そうだね。近距離と遠距離の攻撃でカバーし合えるからいいコンビになるよ!」
「…トクイナフィールドトセンポウカ…」
ヴェインが独り言のようにつぶやいた。




「おかえり、メイア」
学園に入るとリッチャーがポーズをキメ、待ち構えていた。
『何、光ってんのよ、コイツ』
メイアは追い払う気分にもなれなかった。
「戦闘お疲れ。君にプレゼントがあるんだ」
目の前に大きな女郎蜘蛛をぶら下げた。
「キレイな模様っ」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
叫ぶ前にリッチャーの顔面に拳をめりこませていた。



「出てるよ、たくさん…、鼻血」
「ふ…、ふふふ。女の子は好きな男に冷たいもんさ」
『この男…、やっぱりすげぇや』
落ち込んでいたキースに笑みが戻った。










(07.07.30)