にじができるわけ (かえでシリーズより)





8月29日(水) 晴れ一時雨
いよいよ日記ちょうも2さつ目。これからもいやなことがあっても、ちゃんと書いていきたいと思います。
お昼にものすごい雨がふりました。その後お天気になって空を見たら、とてもキレイなにじがでました。にじはどうしてできるのかな。ふしぎでキレイで、ずっと見ていました。
夕方には夏休みの宿題で最後まで残っていた自由研究を終わらせました。押し花は作ってあったので、それを本のようにとじる作業です。思ったよりもうまくできなかったけど、いろいろな色のお花を同じ色が続かないように考えてやりました。
表紙に「4年1組 斎藤みこ」とすみっこに書きました。
あと少しで夏休みは終わってしまいます。やっぱり、学校はいやだな…。
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9月1日(土) 晴れのちくもり
今日から新学期だけど、明日が日曜日でホッとしています。
始業式のあと教室に行く時、田代君に背中をとびげりされました。かべに頭をぶつけて、とてもいたかったけど、泣くのはがまんできました。
帰る時も千田さんにかみの毛を引っぱられました。ちょうど頭をぶつけてタンコブになっていてところだったから、すごくいたかった。にげて帰ってきました。
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9月2日(日) くもり
今日もひとりで家で遊びました。マンガを読んだりトランプうらないをしてテレビも見ました。宿題がないので遊んでばかり。
わたしにはお友達がひとりもいません。クラスの子はこわいから話すことができないのです。でもそれはわたしにも悪いところがあるのでしかたない。なぜならクラスが変わっても同じだからです。わたしが悪くないとしたら、わたし以外のみんなが悪いことになります。それはおかしい。
わたしは性格が暗いから、みんなにきらわれてしまうのです。あと、やせてて背が低いのも原因です。それから、顔色がいつも悪くて元気ないみたいに見えてしまうそうです。
勉強もあまり得意ではありません。「3」がとても多いです。
体が弱くて体育も休みがちというのもいじめられる原因だと思います。
みんなに「バイキン」と言われてしまいます。
でもやっぱり、みんなのようにおしゃべりができないことがいけないと思います。
それから…。
このことはまたいつか書きます。
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9月7日(金) 晴れ
夏休みの自由研究はみんなが見られるように教室の後ろにならべられていました。
今日わたしのものがゴミばこに捨てられていました。せっかく一生けんめい集めて作った押し花がばらばらになっていました。わたしは悲しくなって、がまんできずに、じゅぎょう中に泣いてしまうと先生が「どうかしたのか」といわれたけど本当のことは言えませんでした。
世界中さがせばわたしをいじめない人っているのかな?わたしのつまらない話を聞いてくれる人っているのかな?わたしと遊んでくれる人っているのかな?わたしなんかにやさしくしてくれる人っているのかな?わたしなんかとお友達になってくれる人っているのかな?わたしをきたながらない人っているのかな?
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9月16日(日) くもり
きのうからおなかがいたくて、今日はずっとおふとんでした。
病院の先生が「しんけいせいのいえん」だと言っていた病気がまたでたのかもしれません。
おかあさんはとても心配してくれたけど、わたしにとってはよくあることなので苦しいけどなれています。おなかのお薬を飲んでベットで寝てすごしました。
すごく心配させてしまったのでとても悪いことをしてしまいました。
だから家ぞくには学校のことは絶対に言えません。先生にばれても家にれんらくされてしまうので気をつけないといけない。
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9月28日(金) 雨
雨の日は休み時間にみんなが教室にいるから、いやがらせばかりされてしまう。
木島君に押されてつくえにうでをぶつけて、ヒジのほねがとてもいたくてがまんしてたらその間にランドセルをかくされた。次の休み時間にさがしたら手を洗うところにあって水びたしになっていた。
体そう着をだれかにまどから捨てられてドロだらけにされてしまった。
帰りにカサをかくされてるかもと思ったけど、それはだいじょうぶだったのでうれしかった。たくさんいじめられたので、がまんできなくて泣いてしまう前に急いでにげて帰ってきました。
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10月15日(月) くもり
今日、学校でとてもおなかがいたくなりました。
午後くらいからずうっとがまんしました。今日は体育がなかったので、すごく助かりました。
「さようなら」のあいさつが終わるとすぐに走って帰ってきました。だれかがおかしいと思って追いかけてきたらいけないので、そっと帰るのがいいのだけど、早くトイレに行きたくて走ってしまったのです。
とちゅうですごくつらくなって走ることもできなくなったりしたけど家までがんばりました。なぜ学校のトイレに行けないかというと、だれかに気づかれてしまったら、またいじめられるからです。そんなことが何度もあったのです。
気がつくと、わたしはランドセルをしょったままおトイレに入っていました。
こんなだからみんなにばかにされてしまうのです。
あと、今日のじゅぎょうはぜんぜん頭にはいらなかったので反省しないといけません。
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10月23日(火) くもり
日曜日に行われた運動会の4年生リレーでわたしたちのクラスがビリになってしまったのは、最初に走ったわたしがものすごくおそかったのがいけないとみんなにめちゃくちゃたたかれ、泣かされてしまいました。今年は背の順にならんで1、7、14番目の男子と女子が走ることと決められていたから、わたしみたいな足のおそい子が走らなければならなくなってしまったのです。
こわくて、いたくて、とても悲しかった。でも、悪いのはわたしだから…。
ごめんなさい。今日はつらすぎてあまり書けない。
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10月24日(水) くもり
今日もふくろだたきにあってしまい、そしてみんなの前でげーげーをはいてしまった。
はいてから保けん室に行って寝てて、午後のじゅぎょうに出たらもういじめなくなっていた。
それはわたしがきたないから、だれも近くによりたくないのだと思う。
これが一番のいじめられる原因なのです。
もう、わたしはお友達なんて絶対にできない。
本当はだれかに助けてもらいたい。
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10月25日(木) 雨のちくもり
この日記はお昼の2時に書いています。
今日は学校を休みました。きのう学校ではいてしまったことをおかあさんに言ったのです。
もちろん、いじめられてはいたことは言ってません。やっぱりおかあさんはすごく心配してくれてお仕事まで休ませてしまいました。こうなることはわかっていたけど、どうしても行きたくなかった。
おかあさんはわたしがわりと元気なのを見てちょっと安心して、午後からはお仕事に行きました。「ぐあいが悪くなったらすぐに電話してね」と言いました。
おかあさん、本当にごめんなさい。明日からは心配かけないように学校に行くよ。
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10月26日(金) 晴れ
今日は学校に行きました。
教室に入るとわたしのつくえにチョークで「ゲロ女」とか「死ね」とか「ブス」って書いてありました。つくえの中にはごみがたくさん入っていた。だけどこれくらいのことはわかっていたから。それよりも家ぞくに心配をかけられない。
らくがきとかされてたけど、ぼう力とかはなかったのでよかった。みんなわたしなんかはムシしてました。
わたしにはこのほうがいいのかもしれません。
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10月27日(土) 晴れ
明日はお休みだからうれしい。
榎本さんに「斎藤がいると空気がくさるから学校に来るな」とか悪口を言われたけど、今日はいやなことはちょっとしかなかった。
これでいいのかもしれません。これがいつものわたしです。わたしはお友達をほしがってはいけない子です。できるはずもありません。わたしみたいにすぐに、げーげーをはく子はみんなにめいわくばかりかけてしまうからです。
みんなわたしがきらいです。
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11月5日(月) 晴れ
今日は死にたい気持ちになりました。最近、学校であまりひどいことはされなかったけど、またわたしがいけないから…。あのままなにもなければ平和なのに、わたしはすぐにいじめられるようなことをしてしまう。
書くのはやめようと思っていたけど正直に書きます。
体育の時間、クラス全員でナワトビして20回できたらボールを使ったスポーツをすることになっていたのだけど、わたしがどうしても途中でダメになってしまって、とうとう最後までできなかったのです。みんなはものすごくおこりました。
ほうかのたびに囲まれて悪口を言われて、足やおなかをけられて、とてもつらかった。
でもそれだけでは終わりませんでした。
帰る時からねらわれていて「さようなら」のあいさつが終わって先生が教室から出たとたんつかまってしまいました。にげる間もありませんでした。
体育館のそうこに連れこまれ、ナワトビの特訓をさせられました。
でも、どうしても20回できなくて、そのたびにナワトビでみんなにたたかれて、いたくて何度か失敗しているうちになみだが出てきて泣いてしまいました。
わたしが泣くと、みんながイライラしてきてしまって、よけいに悪口がひどくなってきました。
わたしはもう、フラフラで10回も続かなくなってしまうと「どうして、特訓してるのにできなくなるんだ」と千田さんがおこりだして、いきなりふったナワトビが目に当たりました。
あまりのいたさに、丸くなって泣いていたら、いっせいにナワトビでたたかれました。声をあげてしまうことが止められず、たたかれるたびにひめいをあげてしまいました。
それだけでは気がすまないらしく、丸まってるわたしをむりやりあおむけにしようと手足をみんなが。わたしはていこうできなくて
ごめんなさい。もう書きたくない
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11月6日(火) 晴れのちくもり
またいじめがひどくなってしまいました。おさまった時にわたしがいじめられるようなことをするからいけないのです。
悪口を言われたり、ナワトビでたたかれたり、ほうきでつつかれたり、黒板消しで服を真っ白にされたり、スカートを引っぱられてボタンがとれてぬがされそうになったり、物をかくされたり、教科書やノートを水びたしにされたり、けられたり、ぶたれたり……。
だけどもう、学校は休めない。
つらい。つらいです。だれか助けて。
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11月7日(水) くもり時々雨
学校では、千田さんに教科書で顔をたたかれて鼻血が出た。村野くんにかみの毛をものすごく引っぱられて何本かぬけてしまった。田代くんにとびげりされて転んですりむいた。だれかに体そう服の手さげぶくろをドブに捨てられた。榎本さんに給食のおかずにぞうきんをしぼった水を入れられた。うわばきをおトイレに捨てられた。カサがおれていた。
お願いだから、だれか助けてください。
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11月8日(木) 晴れ
朝、うわばきがなかったので、くつ下のまま校しゃにあがった。
教室につくとわたしのつくえとイスがろうかに出されていた。つくえの中には犬のフンが入っていた。
わたしがそれを捨てようとしてる間「きたねー、きたねー」と言われた。
ほうかになるたびに、男子にわざをかけられた。床におしつけられて、うでを逆向きに曲げられた時は本当にほねがおれてしまうかと思った。
逆えびがためをされた時も、いたさと苦しさで息ができなくなった。
お昼休み、榎本さんが「ビンタ100回泣かないでいたらいじめはやめてあげる」と言い、両うでを持たれて後ろからかみの毛を引かれて顔を上げたじょうたいで、おもいきりたたかれた。100回なんてむり。10回くらいで泣いた。
帰りはつかれて、フラフラでにげることもできない。
花びんの水を全部飲まされた。
そうじばこに入れられて、さかさまにさせれられたり、回りをたたかれたりけられたりして、耳がどうかなりそうだった。
やっと出されたけど、わたしはぐったりと寝ころがったまま。
飲まされた水がお昼に食べた給食といっしょに出てしまった。
みんなの気分を悪くさせてしまって、ほうきでつつかれたりたたかれたりしたけど、もうどうでもいいと思った。あまりいたさを感じなくなっていたから。
動かなくなったわたしに、みんなあきてしまったようで帰って行った。
わたしは見回りの先生が来る前になんとか動けるようになったので、急いではいたものをそうじした。
ランドセルはきせき的に無事だった。
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11月9日(金) 晴れ
体中がアザだらけです。キズだらけです。
たくさんぼう力を受けました。悪口もたくさん言われました。
もう、とてもつかれてしまいましたので、今日は書くこともできないです。
明日は死んでしまうかもしれない。そんな気がしてしまいます。
おかあさん、ごめんね。わたしはダメな子です。
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11月10日(土) くもり
わたしは今日という日を一生わすれません。
それはお昼の下校時です。朝からおトイレに行かせてもらえなくて、それでも帰してもらえなくて、泣いてゆるしてもらおうとしてたけど榎本さんにおなかをおされてとうとう、わたしはおもらしをしてしまいました。
わたしが泣いていてみんなおもしろがっていた時です。谷島さんと辻さんと鈴木えみちゃんが来て「もうやめて!」と言って榎本さんにつめよったのです。榎本さんは千田さんをよびましたが、前に一度千田さんは辻さんとケンカになって泣かされてしまったことがあったらしく、さからえませんでした。
その後、いじめていたみんなを追い出してくれておトイレに4人で入ると、なんと谷島さんはわたしの足をふきだしたのです。わたしは泣きやんでいなくて、でも「手がくさるからだめだよ」と一生けんめい止めました。すると、谷島さんは「ハンカチだけじゃたりないね」と言っておトイレを出て行きました。
その時、辻さんと鈴木えみちゃんに聞いたのだけど、谷島さんにたのまれてわたしを助けてくれたのでした。谷島さんはおとなしい子だけどわたしとはちがって暗いのではなく、おしとやかな子です。みんなにいじめられたけど、もちろん谷島さんにいやなことをされたことは一度もありません。
辻さんは背が高くて体育の得意な子で、鈴木えみちゃんはとてもかわいいので男子で好きだという子が何人かいると聞いたことがあります。この人たちもいじめなんてことはしない人です。
辻さんは「わたしたちも前からずっと見てられなくて教室から逃げてばかりいたけど、谷島さんに相談されて決心がついた。一人じゃ何もできなかったんだ」と言っていました。
わたしはいじめられていてわからなかったけど、クラスのみんながいじめていたわけではないことに気がつきました。わたしが勝手にクラスのみんなをこわがってしまっていたけど、いじめていたのは一部の人たちです。
そして谷島さんがもどって来ると、なんと谷島さんは自分の体そう服を持ってきて「こんなものしかなかったよ。ゆるしてね」と言って服でわたしの足をふいてくれたのです。わたしは必死になってやめるように言ったのだけど、「ごめんね。ごめんね」と言いながらわたしのきたない足をふいていました。
そして、自分の体そう服の下を着がえとしてかしてくれたのです。
辻さんは「またひどいことをされたらわたしに言うんだよ。わたし、もう逃げたりしない」と言い、鈴木えみちゃんは「男子にも味方になってくれそうな人に声をかけておくからね」と教室にもどって行きました。
でも谷島さんは残っています。
わたしはもうおそいと思ったけど「ここにいると谷島さんまでいじめられるから教室にもどって早く帰ったほうがいいよ」と言ったら「みーこちゃんだけいじめられているよりいい」と言い、動こうとしません。
「みーこちゃん」って言い方もびっくりしましたが、自分までいじめられてもいいだなんて、谷島さんはどうかしてしまったんじゃないかと思いました。
わたしは、
「もしかしたら、谷島さんはわたしをきらっていないかも…」
そんな気がしてきました。
二人でずっとだまったまま、おトイレにこもったままでした。谷島さんはわたしと目が合うとうつむいてしまいます。
わたしは思いきって、谷島さんに「いっしょに帰りたい」とお願いをしました。ことわられてもそれがあたり前なのだから、いいんです。
おどろきました。谷島さんはわたしをじっと見ると、目からなみだがたくさんあふれ出てきたのです。
帰り道、谷島さんはしくしくと泣いていました。わたしはわけがわからず、途中の公園で休んでお話をしました。
そこで谷島さんから聞いたのです。谷島さんも3年生の時いじめられていて、4年生になったばかりの今年の春に小谷くんに消しゴムをとられて困っていたそうです。その時に谷島さんの消しゴムがわたしの足もとにころがってきて、わたしは見つからないようにかくし、後で谷島さんにそっと返したことがあったそうです。言われてみればそんなこともあった気もしますがよく覚えていません。
クラスでのいじめはわたしに集まったんだけど、谷島さんは止めにはいったらまた自分がいじめられると思ってどうすることもできなくて、とてもつらかったと言ってました。
それで、今日同じ班の辻さんと鈴木えみちゃんに相談したというわけです。辻さんたちが悪い人だったら谷島さん本人もいじめられてしまうかもしれないけど、それでもよかったなんて言っていました。
「本当はわたしがいじめにあっていたのに、助けてくれたみーこちゃんにひどいめにあわせてしまった」と言いました。
わたしは「それはちがうよ。わたしはすぐにはいてしまうから、ずっと前からいじめられてた」と言っても「ごめんなさい、ごめんなさい」と言い、わかってもらえませんでした。
その後、帰ることもわすれてずうっとお話をしました。
谷島さんはわたしと好きなものがよくにていたのですごく、むちゅうになって話してしまいました。
でも、谷島さんはわたしのことを「やさしい」とか「かわいい」とかおかしなことも言うので、お話の調子がおかしくなってしまいます。
谷島さんが「いつか、わたしをゆるしてくれる時がきたらお友達になってね」と言った時わたしは、自分がきたない女の子というのをわかってたけどがまんできずに、谷島さんにだきついて声をあげて泣いてしまいました。
わたしは泣きやまないまま帰ってきてしまったので今度、谷島さんと会うのがちょっとはずかしいです。
もう、11時になってしまいました。こんなに書いたのは初めてです。でも絶対に書かないといけないことです。
月曜から谷島さんといっぱい遊ぼう。すごく楽しみです。谷島さんをいじめる人がいたら殺してしまいそうです。
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12月19日(水) 晴れ
初めてしょく員室によばれて先生におこられました。体育のじゅぎょう中、榎本さんにかみついて泣かせたからです。血が出ました。いいきみです。わたしはあやまりませんでした。
榎本さんが谷島さんに石をぶつけて、泣かせたからです。
先生もわかってくれたと思う。谷島さんはとてもやさしくておこらないから、かわりにわたしがおこっただけだからです。
今日も谷島さんといっしょに帰りました。あんなことになって、谷島さんにも注意されるかなって思ったけど、「わたしもだれかがみーこちゃんを泣かせたらキレちゃうと思うから」って言ってくれました。すごく、すごく、すごくうれしかったけど、谷島さんのおこったところってちょっとそうぞうつかないなぁ。
谷島さんは「ありがとう」と「うれしい」ばかりでいつものように「おじゃる丸」の話ができませんでした。