れきりま 2 (夜明け前)


*画像はわたしがイメージするところのガイン教官です。




「ガインの担当、かなり今期生は相当にヤるようだね」
グラスをテーブルに二つ置きアイスボックスと並べ、ケニヒがガインに問いかける。
「ん…。すまんな」
ガインはバーボンを棚から1本取り出した。
「とっておきの上モノだ」
「何かいい事でもあったのかい?」
「そういうワケでもないんだが…、今夜はなんとなく、な」
椅子に腰を落ち着けると互いに酌を酌み交わす。


「さっきの話なんだが…」
「今期生の事かな?」
「…レイ・ジーニアス、お前が試験の時に組み手をしたタワケだが…」
いつものやわらかい笑顔でケニヒは額に手を添えた。
「頭突きの子だね。彼が何か?」
「……どう思う?」
少し伏し目がちになる。
「怖かったよ…、正直あの時は。彼が体勢を崩さなかったら確実に倒されていた…。強烈な頭突きだけで済んだのは幸いだったよ」
ケニヒは両手でグラスを持ち、当時の事を思い出す。
グラスを呷るガインが息を吐く。
「ガインが『殺す気でかかって来るように』なんて煽るから…」
「いつものセリフだ」
「だね…。でも、あの時ばかりは恨んだよ」
ケニヒは苦笑した。
「まぁな。そういうオレもキースと当ったんだが、表面上は教官とテスト生の組み手だ。相手にならん。…が、ヤツの静寂な気迫は…。最後まで気を抜けやしねぇ」
「見てたよ。キース・ハング君との組み手」
ガインは少し気まずそうにすると、指で煙草に火をつけた。
「ヤバくなったら、ヤツを燃やしていたかもしれんな。くっくっくっ」
「そういえば組み手で魔法を使ったのはレイ君だけじゃなかったよね」
「メイアか?」
「エルマ、肩のヤケドの跡残りそうみたいだよ」
「ふふふ…。開始早々、いきなりアレを出されるとは予想していなかったヤツが甘い」
「でも開始の声をかけ終わるかどうかのタイミングで頭めがけてじゃ…」
「向かい合った時から試合は開始されている。エルマは女が相手だから油断していたんだろう。ヤツの悪い癖だ」
ケニヒがグラスを上げ氷を鳴らした。
「ウチにもいますよ、化けそうな生徒」
「ふむ…、リオ・アースか?ブルド、試験じゃキツイの一発食ったらしいな」
手酌でおかわりを注ぎながらケニヒが微笑む。



「ケニヒ、お前は相変わらず強いな」
「いや、戦闘力じゃガインにはまだ」
「当たり前だ!オレは『酒が強い』と言ったんだ。顔色ひとつ変わりゃしねぇ」
「そうかなぁ?」
「シラフのヤツとは話しにくいもんだ」
「いや、これでも酔ってるんだよ」
ガインは鼻で笑う。
「お前も油断ならんヤツだな」
「『も』?」
「連中だ。……時期尚早なのはわかっているが、世界を変えるかもしれん」
「あはは。酔ってるよ、ガイン」
「まぁな。だが、所詮ヤツらはまだヒヨコだ。連中が束になってもオレ様は倒せはせんだろう」
「でもどうかな?あの魔獣…」
「ヴェインか?」
「レイ君がヴェインと組んで4人でかかって来たら?」
「……考えたくないな」
「初めの2秒。そこで下手を打つと瞬殺されるだろうね」
「……お前も加勢しろ」


「ところで、マナとかいう娘だがよぅ」
煙草を口にし、空になった箱を握りつぶした。
「何者なんだ?ありゃ」
「村娘とは聞いてるんだけど…。気になるよね、やっぱり」
「普通じゃないのはわかるんだが、妙なんだ」
「だね。レイ君の従者と自分では言っていたけど、不思議な子だよ」
ガインが身を乗り出した。
「そこだ。ケニヒ、1+1はいくつだ?」
ケニヒは薄く微笑んだ。
「5かな?いや100かもしれないね」
「……。フン、それはオレに言わせるセリフだ。取るな!」
「ガインの言いたい事なんて、ぼくはなんだってわかるよ。知恵じゃ負けないからね」
「この野郎…。いつか決着つけてやる」
「力だけのゴリ押しでぼくは倒せないよ〜」
「お前がオレ様に勝てるのは格ゲーだけだ」
ケニヒが大袈裟にため息をつく。
「ガインなんてHP半分以下からでもKOできちゃうかな」
「クソッ!当ってやがるだけに腹が立つ!もう1本空けるぞ!持って来い!」
「ははは、イヤだ」
「燃やすぞ」
「違うよ。ほら、外…」
夜明け前の白んだ空。
がやがやとレイ達が帰還して門を入って来たところだ。
「あれが一戦交えた後の生徒の顔ですかね?」
やはりやわらかい笑顔で窓の外を見るケニヒ。
「ケッ、フザケやがって!一発、シメてやるか!」
ガインが椅子から立ち上がると、ドアと全く違う所に激突し転倒した。
「痛ぇ!誰だ、ドアの位置変えやがって!」
「ガインはここにいていいよ。ぼくが迎えに出るから」
「うるせぇ!オレは連中なんざ怖かねぇぞー!にゃろう!『ぷよぷよ』で勝負だぁ!」
酔って吠えるガインを置いてケニヒは部屋を後にした。